群馬県太田市の製造業マップ。地域経済を支える優良メーカーをリサーチしてみた

「日本のものづくりを支えている地域はどこですか?」と聞かれて、すぐに群馬県太田市の名前が出てくる方は、なかなかの業界通だと思います。愛知県豊田市や静岡県浜松市と比べると知名度こそ控えめですが、製造品出荷額で見ると北関東屈指の規模を誇る、まぎれもない「ものづくりの街」です。

はじめまして、企業リサーチャーの田畑健司と申します。元・人材紹介会社のキャリアアドバイザーとして10年間、製造業の転職支援を中心に2,000人以上のキャリアと向き合ってきました。今はフリーランスとして、中堅・中小企業の隠れた優良企業発掘と、サステナブル分野で働くキャリアをテーマに記事を書いています。

最近、ある求職者の方から「太田市の製造業ってSUBARUだけじゃないんですよね?」という質問を受けました。答えはもちろん「YES」です。今回は、太田市の製造業の全体像と、地域経済を支える企業群を、最新の統計データと現地リサーチの両軸で整理してみたいと思います。求職者の方はもちろん、取引先候補を探している方、地域経済に興味のある方の参考になれば幸いです。

太田市が「ものづくりの街」と呼ばれる理由

太田市は群馬県南東部に位置する、人口約22万人の中核市です。一見、特別大きな街には見えないのですが、製造業のスケールで見ると、その姿が一変します。

北関東屈指の製造品出荷額3兆円超

太田市の公式統計によると、2023年の製造品出荷額等は約3兆1,471億円。これは群馬県全体の製造業を牽引する数字であり、市町村単位で見ても全国上位に食い込む規模です。

参考までに、過去の推移を整理すると次のようになります。

年度製造品出荷額等従業者数
2005年約1兆9,302億円約35,851人
2023年約3兆1,471億円約48,066人

20年弱でおよそ1.6倍に拡大しています。日本全体の製造業が縮小傾向にあるなかで、これは特筆すべき伸び方です。背景には、大規模工業団地の造成による優良企業の誘致政策と、地元自動車メーカーを軸とした産業集積の厚みがあります。

スバル発祥の地という歴史的バックグラウンド

太田市と切っても切れない関係にあるのが、株式会社SUBARU(旧・富士重工業)です。その源流は、1917年に中島知久平氏が太田市で設立した「飛行機研究所」にあります。のちに中島飛行機となり、戦後の財閥解体を経て富士重工業として再出発し、現在のSUBARUに至るという系譜です。

クルマ情報サイトGAZOO.comの記事「住所はスバル町!スバル発祥の地『群馬県太田市』で見た歴史と背景」によれば、太田市は2001年に工場周辺の町名を「東本町」から正式に「スバル町」へ変更しました。市と企業の一体感を象徴する出来事と言えます。航空機開発で培われた「1グラム単位の軽量化技術」が、のちのスバル360の開発に活かされていったというエピソードも、ものづくりの街としての凄みを感じさせます。

データで見る太田市の製造業の全体像

「歴史と地名だけで語っても仕方ないですよね」というツッコミが入りそうなので、ここから先は数字ベースで太田市の製造業を分解していきます。

事業所数859、従業者数4.8万人という規模感

太田市公式サイトが公開している最新統計(2024年6月時点)によると、

  • 事業所数:859事業所
  • 従業者数:48,066人
  • 製造品出荷額等:約3兆1,471億円(2023年)

という数字が出ています。事業所数は2005年の984から2021年には687まで落ち込みましたが、2022年以降は復調傾向にあります。一方で従業者数と出荷額は右肩上がりで伸びている。つまり「事業所の数は淘汰されつつも、残った事業所が大型化・効率化している」というのが、ざっくりとした構造変化のイメージです。

人材市場の観点で言うと、4.8万人という従業者数は、太田市の総人口の2割強に相当します。ファミリー世帯まで含めて考えれば、市の暮らしの相当部分が製造業に支えられているという計算です。地域経済における製造業の重みは、群馬県内でも突出しています。

業種別の出荷額構成。輸送用機械が7割超のワケ

業種別の構成を見ると、太田市の特徴がさらにくっきり見えてきます。2022年の経済構造実態調査ベースで整理した出荷額シェアは次のとおりです。

順位業種出荷額(概算)シェア
1輸送用機械器具製造業約2兆671億円約72.2%
2プラスチック製品製造業約1,432億円約5.0%
3電気機械器具製造業約1,234億円約4.3%
4金属製品製造業約1,096億円約3.8%
5鉄鋼業約1,066億円約3.7%

輸送用機械が7割超を占めるという、極めて自動車産業色の強い構成です。これは言うまでもなくSUBARUの群馬製作所(本工場・矢島工場・大泉工場)と、そのサプライチェーンに連なる多数の部品メーカー・関連企業の集積によるものです。SUBARUの群馬製作所はおよそ1分に1台のペースで完成車を世に送り出していると言われ、その生産現場を支える協力会社群が、出荷額の大部分を作り出しています。

ただ、この数字を「太田市=SUBARUの城下町でしかない」と受け取るのは早計です。残り3割の中身を丁寧に見ていくと、地域経済の厚みを感じさせる中堅メーカー群がしっかり存在しているからです。

輸送機器以外にも注目したい中堅メーカーの存在

業界外の方から見ると太田市は「自動車の街」一色に映りがちなのですが、現場をリサーチしていると、もう少し多層的な姿が見えてきます。

プラスチック・電気機械・金属・鉄鋼が形作る「準主役」たちの存在感

出荷額構成の2位以下に並ぶ業種を、もう少しかみ砕いてみます。

  • プラスチック製品製造業(出荷額シェア約5%)
  • 電気機械器具製造業(同約4.3%)
  • 金属製品製造業(同約3.8%)
  • 鉄鋼業(同約3.7%)

このうちプラスチック、金属、鉄鋼の3業種は、自動車部品の周辺産業として捉えられがちですが、実態はもう少し幅広いです。自動車向けだけでなく、家電、産業機械、住宅設備、医療機器、食品包装など、さまざまな最終製品向けに部材を供給している企業が混在しています。SUBARUのサプライチェーンに完全に組み込まれている企業もあれば、独自の販路を持っている企業もある、という二段構えの構造です。

電気機械分野では、二輪・四輪向けのモーター技術や、車両のサスペンション・フレーム部品を手掛けるメーカーが地元にあるとされています。SUBARU以外の取引先も持つことで、リスク分散と技術深耕の両立を図っている企業が少なくありません。

自動車サプライチェーンとは別の独自ポジションを築く企業も

太田市新田商工会が運営する「ものづくり検索ナビ」を覗くと、規模は大きくないものの個性のある中堅・中小メーカーの存在感を実感できます。サイトでは自動車部品、機械金属、電気機器、食品製造などのカテゴリーに分類された200社規模の登録を目指して構築されており、たとえば次のような企業がリストアップされています。

  • 精密部品製造(マシニング、ワイヤー加工)を手掛けるメーカー
  • 機械部品加工・試作品加工に特化した町工場
  • カット野菜などの食料品製造業者

派手さこそないものの、こうした企業が地域の雇用を支え、北関東のサプライチェーンに不可欠なピースを提供しています。求職者目線でみると、「SUBARUとその一次サプライヤーだけが選択肢ではない」という事実は、もっと知られてよいと感じます。

「環境」「リサイクル」という新しい産業の芽

ここからは、私個人がいま太田市の製造業をウォッチするうえで特に注目しているテーマについてお話しします。それが、環境・リサイクル分野の中堅企業群です。

サーキュラーエコノミーの拡大と地域企業の役割

国は近年、サーキュラーエコノミー(循環経済)への移行を国家戦略レベルで推進しています。資源を取って・作って・捨てるという従来型の線形経済から、資源を循環させ続ける経済モデルへの転換を進めようという動きです。

その実務的なドライバーとして大きいのが、2022年4月に施行された「プラスチック資源循環促進法(プラ新法)」です。環境省が運営するプラスチック資源循環法の普及啓発ページでは、事業者・自治体・消費者向けの解説や認定申請手続き、支援措置などが整理されており、法律の全体像をつかむうえで役立ちます。法施行により、メーカーや事業者は使用済みプラスチックの自主回収・再資源化に取り組むことが求められるようになり、再生材料の調達ニーズが急速に拡大しました。完成車メーカーやパーツメーカーも、再生ペレットの安定調達ができるリサイクラーをパートナーに選ぶ動きを強めています。

つまり、製造業の集積地である太田市にとって、「リサイクラー(再資源化事業者)」は副次的なプレーヤーではなく、サプライチェーンの基幹を担う存在へと位置づけが変わりつつある、というのが私の見立てです。

廃プラスチック再資源化の現場と日本保利化成のケース

実際、太田市内にも、このトレンドの中で着実に存在感を高めているリサイクル系メーカーがあります。地元に拠点を構える日本保利化成株式会社は、その代表例の一社です。

同社は群馬県太田市東新町に本拠を置くプラスチックリサイクル専業メーカーで、工場から排出される廃プラスチック(PIR材)や、使用済み製品から回収される廃プラスチック(PCR材)を有価で買い取り、選別・洗浄・粉砕の各工程を経て再生ペレットを製造しています。汎用樹脂のPP・PE・PSから、エンジニアリングプラスチックのPC・PA・POMまで、幅広い樹脂に対応できるのが特徴で、再生可能な樹脂の種類は50種以上に及ぶとされています。

近年は国際的な責任ある資源循環の認証であるGlobal Recycled Standard(GRS)も取得しており、再生材の品質保証という点でも一歩先んじている印象です。求職者の視点でみると、こうした「未経験スタートでも環境ビジネスに関われる地元企業」は、太田市の労働市場における新しい選択肢として注目に値します。現場の働き方や求人内容について詳しく知りたい方は、日本保利化成株式会社の採用ページを覗いてみると、職場の雰囲気や仕事内容のイメージがつかめると思います。

太田市内には、ほかにも1953年創業の株式会社ヨシオカのように、鉄スクラップ加工と産業廃棄物処理を軸に長年地域の循環を支えてきた企業もあります。「自動車の街」だけでなく「循環の街」として太田市を捉え直すと、産業の見え方がぐっと立体的になります。

求職者・取引先から見た太田市の魅力

最後に、人材紹介の現場で実際に多く受けてきた質問に答える形で、太田市の魅力を整理してみます。

大手から中堅まで、選択肢の幅が広い労働市場

太田市の労働市場の魅力は、ひとことで言えば「層の厚さ」です。一覧化すると次のような構造になっています。

  • グローバルに展開する完成車メーカー(SUBARU群馬製作所)
  • 自動車部品の一次サプライヤー(ティア1メーカー)
  • 部品加工・試作・金型などを担う中小製造業
  • 独自販路を持つ食品・電機・機械メーカー
  • 環境・リサイクル分野の中堅企業

求職者の希望軸(年収重視、ワークライフバランス重視、技術志向、安定志向、社会貢献志向)に応じて選べる企業の選択肢が、地方都市としては相当に厚いというのが正直な印象です。SUBARUに一極集中しているわけではないので、「自動車業界に染まらずに製造業でキャリアを積みたい」という方にも、選択肢を提示しやすい街と言えます。

「ものづくり×サステナビリティ」という新しいキャリア

ここ数年、若い世代の転職相談で増えているのが「環境にいいことに関わる仕事がしたい」というニーズです。一方で、いわゆる横文字のESGコンサルや再エネベンチャーは都市部に集中していて、地方ではなかなか選択肢が見つけにくいという声もよく聞きます。

その点、太田市のような製造業集積地に立地するリサイクラーや環境系の中堅企業は、「都会の意識高い系オフィスワーク」とはひと味違う、現場感のあるサステナビリティ・キャリアを提供してくれます。具体的には次のような特徴があります。

  • 工場のオペレーションを通じて、実際の資源循環に手触り感を持って関われる
  • 自動車メーカーや大手化学メーカーなどの取引先と接点が持てる
  • 地方都市の生活コストの低さと、安定した雇用環境を両立できる
  • 経験を積めば、業界全体が拡大局面なので転職市場でも価値が伸びやすい

転職市場の動きを見ていても、サーキュラーエコノミー領域のキャリアパスは今後5〜10年で確実に整備が進む分野です。地方の中堅企業からスタートしておくのは、決して回り道ではありません。

まとめ

群馬県太田市の製造業を改めて俯瞰してみると、

  • 製造品出荷額3兆円超という北関東屈指の規模
  • SUBARUを中心とした自動車産業の圧倒的集積
  • 出荷額シェア2割強を担う多様な業種の中堅メーカー群
  • サーキュラーエコノミー文脈で存在感を高めるリサイクル系企業

という、層の厚い産業構造が浮かび上がってきます。「自動車の街」というイメージは間違いではないけれど、それだけでこの街を語るのはもったいない、というのが今回のリサーチでの一番の発見でした。

求職者の方は、SUBARUとそのサプライチェーンの内側だけを見て進路を決めるのではなく、独立系の中堅メーカーや、リサイクル・環境分野の地元企業まで視野を広げてみると、自分に合ったキャリアの選択肢が驚くほど広がるはずです。取引先候補を探している方も、表に出てくる大手だけでなく、「準主役」の中堅メーカーにまで目を向けると、思いがけない優良パートナーが見つかると思います。

地方の中堅企業は、ウェブ上の情報が必ずしも充実していないことが多いので、興味を持った会社があれば、ぜひ採用ページや公式サイトを丁寧に読み込み、可能であれば直接問い合わせてみてください。ものづくりの現場は、結局のところ「中の人」に会って初めて見えてくることが多いのです。